第五回
青洲の書(1)

今回は青洲自筆の書をいくつか披露し、その漢詩・言葉の出典と解説を試みよう。

凡例

華岡青洲先生は、名は震、字は伯行、通称を随賢と言った。青洲はその号である。
書画の落款の形式は、基本的には号+姓+名であるが、そのうちのどれかを省略するなどバリエーションがある。また、姓は二字を一字に省略して書くことがある。(これを省すると言う。)これは中国の一字姓に倣うものである。

〇遺墨での実例は次のようになっている。

No
1 青洲  
2 青洲    
3 青洲      
4 青洲     七十有五
5    
6      
7 落款

※今回の遺墨は3・6・7である。

華岡青洲先生の崩し字は、一般的な崩し字のほか独自のデフォルメされた崩し字もあり、意味内容が分からなければ、字面だけでは読めないものがある。
華岡青洲先生の遺墨において、落款の有るものと無いものがある。当時の知識人は揮毫を求められることが多く、これに応じるため書を書き溜めていたが、そのうち本人も納得したものには落款を署し落款印を押しているが、そうでないものや下書き・失敗したものには落款を署せず落款印を押さない。中には、内容的に完成していないが、落款を署し落款印を押しているものもある。これらは、通常本文を書くのと落款を書くのが時間的に隔たっている場合に、機械的に落款を署し落款印を押印してしまったものと考えられる。
華岡青洲先生の遺墨の語句等の出典は、概ね経書(詩経・易経・春秋左氏伝・論語・孟子等)、史書(史記等)、子書(老子・荘子等)、集書(唐詩選・三体詩等)にわたっており、自作の詩句も若干使われている。

江戸時代は知識人の教養は漢詩の素養につきますが、青洲も幾多の文人と交流していたようです。(注:別の回に交流人脈を披露します。)
今回は書により、その一端をご紹介しました。

なお、書の解読は、小原道城(こはらどうじょう)書道美術館 宮田副館長様にご協力をいただきました。

■第22期特別記念展■
近代詩文書の父 金子鷗亭 展を開催中

金子鷗亭(かねこおうてい)(1906~2001)は、北海道松前の出身。大正10年15歳で札幌鉄道教習所に入所。大塚鶴洞(おおつかかくどう)・川合尚亭(かわたにしょうてい)などから書を学び、同級には桑原翠邦(くわはらすいほう)などがいた。昭和4年に函館師範学校を卒業。同7年に上京して比田井天来(ひだいてんらい)に師事し、翌8年には上田桑鳩(うえだそうきゅう)が結成した書道芸術社に参加した。
 「現代に活きて居る吾等には現代の書がなければならぬ」との合い言葉のもと、「新調和体」の考え方を提唱・実践していった。
戦後、毎日書道展に「近代詩文書」部門の開設を働きかけて実現。昭和35年には日展の会員に推挙され、「近代詩文書(調和体)」の思想を広めた。同42年には日本芸術院賞、同62年には文化功労者、平成2年には文化勲章を受章した。
 北海道立函館美術館や国立新美術館の設立に大きな役割を果たし、「全国戦没者追悼之標」の揮毫でも著名。当展では、鷗亭の作品を中心に、子息 金子卓義(かねこたかよし)、孫 金子大蔵(かねこだいぞう)の作品、そして札幌鉄道教習所時代の師で、北海道書壇の先覚者である大塚鶴洞の作品も展覧する。
 会期は11月29日(日)まで。

■第23期特別記念展は12月8日(火)から■
犬養毅と昭和政治家の書展を開催予定

犬養毅(いぬかいつよし)(木堂、1855~1932)は、第1回衆議院議員選挙当選以来、終生議員として活躍。憲政の確立・藩閥の排除・普通選挙の実現に尽力し、尾崎行雄(おざきゆきお)とともに「憲政の神様」と呼ばれた。満州事変後に総理大臣に就任し、その収拾に当たるが、翌年5・15事件により首相官邸で暗殺された。
 犬養は、孫文などアジアの亡命政治家や文人との交流を積極的に行うほか、幼少期からの漢字を根柢に、木堂と号して、独特の書作品を多数産みだした。本展では、犬養毅の作品を中心に、若槻礼次郎(わかつきれいじろう)・浜口雄幸(はまぐちおさち)ら政党政治を守ろうとした人々、米内光政(よないみつまさ)・山本五十六(やまもといそろく)ら戦争に懐疑的でいながら結局それを担う事となった人々、そして、吉田茂(よしだしげる)・岸信介(きしのぶすけ)・池田勇人(いけだはやと)・佐藤栄作(さとうえいさく)・田中角栄(たなかかくえい)ら、敗戦後の日本の再建・発展に関わった人々など、激動の昭和戦前・戦後の宰相を中心に26名の書作品50点余を展覧し、書との関わりを振り返る。
 会期は令和3年3月31日(水)まで。12月21日~1月11日までは年末年始休み。

文責:華岡青洲文献保存会 代表幹事 髙島

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